米中貿易戦争が加熱の一途をたどっています。トランプ大統領は、なかば「因縁」じみたケンカを中国にふっかけているようにも見え、「やりすぎなのでは?」と思う人も少なくないはず。
〈追記 2019.8〉日中の争いが激化する中、日米の貿易交渉も行われました。日本がアメリカの農産品輸入拡大という要求をのまされた一方、日本車のアメリカへの輸出関税撤廃、という日本の要求は実現しませんでした。日本はアメリカとの厳しいやり取りに敗れてしまったのです。〈追記 終〉
いったい、高圧的なアメリカの真意は何なのか。アメリカが目指す未来は何なのか。アメリカの振る舞いから考える、日本の取るべき未来は何なのか。今回はこのへんをドルーロにゃんが考えてゆきます。
なぜ貿易戦争が始まったのか
アメリカが中国に「ケンカ」じみた貿易戦争をふっかけている理由は、一言で言えば「中国が発展しすぎたから」です。
社会主義国の中国では、かつて、企業も財産も全て国のものでした。民間企業などなく、利益を得るために競争しあうということもありませんでした。これでは産業の発展が進むことはなく、中国をはじめとした社会主義国では経済が停滞します。
この状況を打開するため、1980年代になって、中国の指導者、鄧小平はその方針を変えます。中国の経済発展のためには部分的に資本主義を認め、財産の所有や利益を出すことが許されたのです。さらに90年代からは沿岸部に国外の企業を誘致し、製造技術を学ぶと同時に、安い人件費と大量の労働者を武器に、世界中に製品を輸出し始めます。
2000年代には「世界の工場」とまで言われるほど中国の輸出は拡大し、中国の経済規模も飛躍的に大きくなりました。日本の市場にも、「Made in China」の服、野菜、家電製品などがあふれ出します。
2010年代になると、中国はGDPで日本を追い越し、世界第二位の経済大国へ急成長します。近年ではハイテク技術の発展も凄まじく、スマホやAIなどの分野ではアメリカに並ぶとも言われています。
関連リンク:中国が強くて、日本が墜ちた5つの理由 〜どうして日本は衰退してしまったのか~
アメリカにとってはこうした中国の発展が国益を害する、とトランプ大統領は考えているのです。それはなぜでしょうか?
アメリカが貿易戦争を仕掛けた理由
理由① 貿易赤字の削減
もし自分が商売人だったとして、買う方が売るより上回ってしまうと、支払うばっかりでお金なくなってしまいます。これは貿易もおなじで、アメリカ国外からの輸入が、輸出より上回ってしまうと、アメリカの通貨であるドルが国外に流れていってしまうのです。
中国がアメリカに輸出を増やせば増やすほど、アメリカの貿易赤字が増え、困らせることになるのです。
理由② 産業保護と世界シェアの死守
もう一つアメリカがケンカをふっかける理由が、国内産業の保護です。
中国製品が国内に大量にはいってくれば、国内の同じ製品は、相対的に売上が下がってしまいます。国内企業の製品売上が下がれば、その企業の業績はもとより給料も下がるどころか、雇用自体が失われかねません。
特に、中国のハイテク分野での発展には目を光らせています。これまで、スマホなどのIT、ロボットやAIといったハイテク分野はアメリカが常に最先端で、アメリカ国内の市場だけでなく、世界中の売上を独占してきました。世界中の市場から利益を吸い上げてきたからこそ、アメリカが世界一の大国であり続けてきた、と言っても過言ではありません。
しかし、中国がその分野で追いつき、アメリカの世界市場独占を阻んだら、アメリカのハイテク産業にとっては大打撃となるのです。
こうした理由から、大統領に就任したトランプの指揮のもと、「中国を潰す」方向へ、アメリカは舵を切ったのです。
日本とアメリカの貿易戦争
我々日本人は対岸の火事のように聞いていますが、他人事ではありません。
貿易戦争によって中国経済が減退すれば、需要の減った中国への輸出も減り、日本経済も悪化しかねません。それだけでなく、日本も中国と同じように、アメリカによる圧力の被害者でもあるのです。私たち日本人は、かつて、アメリカからケンカをふっかけられたことがを忘れてはなりません。
太平洋戦争後、高度経済成長を遂げた日本は、その成長とともに世界中へ製品の輸出を拡大していきました。その結果、アメリカからの反発を招き、繰り返し圧力をかけられます。アメリカからの圧力を受けるたび、日本は折れ、また違う方法で発展を遂げたら、再び圧力を受け、ということを繰り返されました。これを日米貿易摩擦と呼びました。
1960年代に始まった貿易摩擦は、なんども日本がアメリカの要求を呑み、いよいよ2000年代には「構造改革」の圧力に屈し、日本経済を徹底的に破壊していったのです。
戦後から現在まで続く、日本とアメリカの攻防については、こちらで解説しています。アメリカに2度負けた日本 〜どうして日本は衰退してしまったのか~
〈追記 2019.8〉8月、日米貿易交渉が行われました。アメリカにトランプ大統領が現れてから、再び日本への圧力が強まっており、それを受けての交渉でした。トランプの主張はこうです。アメリカの貿易赤字の原因は中国だけでなく日本にもある。日米の貿易は不公平である。だからアメリカの農産物や車などの製品をもっと買えと、いうものです。
さらには、交渉の前に、日米安全保障条約の破棄にまで言及し、日本に揺さぶりをかけてきました。アメリカが日本を守ってあげるだけの条約は不公平だ、と。自国を守る軍隊を持たない日本は、アメリカが守ってくれないとなると大問題です。そこで安倍総理は、5月の首脳会談で、アメリカからステルス戦闘機105機(一兆円超)を買う約束をします。安倍総理とトランプは仲が良さそうに見えますが、実はそうではなく、日本がこのように素直に言うことをきくので、トランプ大統領が上機嫌なだけでなのす。
関連リンク:アメリカが安保を破棄したい理由とは?日本も再軍備が必要なとき?
そして、今回の日米貿易交渉では、アメリカの農産物の輸入拡大を約束せざるを得ず、一方で日本の要求は受け入れられませんでした。中にはこの交渉は成功だ、という意見もあります。今回の農産物輸入は、日本の農業に打撃をそこまで与えないことと、悪化する日韓関係についてアメリカを味方につけられたこと、がその理由です。〈追記 終〉
中国は、日本の失敗をよく研究しました。学んだことは、日本のようにアメリカの圧力に屈したら、アメリカに都合のいい経済体制のもとで、手足を縛られた経済社会になる、ということでした。
中国は、アメリカに徹底して対抗する意思を示しています。かつて日本は貿易摩擦が起きてもアメリカの気を損ねることはできませんでした。アメリカに国防を任せきっているのから、アメリカの機嫌が悪くなれば、国を守れなくなる懸念が生じるのです。中国にはその心配はなく、アメリカに対抗することができるのです。
日本も中国を潰すべき?手を組むべき?
米中貿易戦争を前にして、日本はどのような対応をとることが望ましいのでしょうか。
選択肢① アメリカと一緒に、中国を潰す
ひとつの道は、アメリカと一緒になって中国を潰すこと。
日本は、アメリカが中心となる既存の貿易体制で利益をあげています。また、中国製品が大量に輸入されては、国内企業の製品の売上が下がってしまう懸念があります。アメリカの場合と一緒ですね。ですから、同盟国アメリカと強調するのが最も「無難」な選択です。
一方中国は、アメリカによる圧力が強くなればなるほど、既存の貿易体制からの脱却を目指します。アメリカに邪魔されない、独自の貿易ルール、独自の貿易ルートで、自国に都合の良い貿易を行うためです。
そのために中国はこれまで、したたかに、世界中にお金をばらまいて、協力国や貿易拠点、軍事拠点を築き上げてきました。この流れがとどまることはなく、ジリジリと中国が世界での覇権を拡大しつつあります。
もし中国が新しい貿易体制を世界中に築けば、アメリカを中心とした、アメリカが得をする既存の貿易体制が揺らぎ、アメリカの国益は損なわれます。
アメリカが本気で中国の覇権拡大を止めようとするとき、戦争が起きるでしょう。アメリカは沿岸の同盟国が多く、世界中に軍事拠点を持っています。その強大な海軍力をちらつかせて、中国の貿易を阻害することもできます。中国がこれに屈しない場合、軍事力を拡大してきた中国とアメリカの戦争が勃発するのです。
そしてその戦場は極東になる可能性もあります。日米両軍が東シナ海を塞げば、東シナ海にしか面していない中国の貿易はストップするからです。もちろん、最前線の日本は無傷では済まされないはず。この極東戦争によって、多くの自衛官、民間人の死傷者が発生するでしょう。
果たして、ここまで犠牲を払う以上に、既存の貿易体制を守ることが日本の国益になるのか、これは微妙なところです。
選択肢② 中国と手を組む
2つ目の日本の道は、中国と手を組む選択肢です。
アメリカからの圧力によって、経済の減退などマイナスの影響が出る中国ですが、世界第三位の経済規模をもつ日本が協力することで、形勢は逆転します。
現在の日中関係は、経済では世界シェアを競うライバル、軍事的には西太平洋の覇権を争う敵国です。しかし、対立関係にあった日本と中国が手を組み、世界の貿易額のうち中国・日本陣営が占める割合が既存の貿易体制を圧倒すれば、必然的に新しい世界貿易体制の管理者となることでしょう。日本としても、中国に協力するのと引き換えに、日本に有利な貿易ルールの締結を求めれば、日本の国益にも叶います。
しかし同時に、アメリカとは敵対することになり、アメリカという巨大市場への貿易は断たれることで、日本の産業は打撃を受けます。また、形勢逆転を是が非でも避けたいアメリカが、軍事力を行使する可能性すらあるでしょう。結局のところ、アメリカを敵にした極東戦争が起きる、ことが危惧されます。
選択肢③ 日本のとるべき選択肢
上記の2つの方法は、いずれも良い選択肢であるとは言い難いものです。では日本はどうすればいいのか。その答えは、嘘みたいな答えですが、「2つの中間を取る」ことです。
日本が中国に接近する素振りを見せれば、アメリカは焦ります。日米の貿易摩擦が終わった今でも、トランプ大統領は日本の自動車産業に、関税の引き上げや輸入規制などで圧力をかけてきています。
でも、本当に中国と組んでしまったらアメリカとは敵対関係になってしまいます。日本としても巨大な軍事力を持つアメリカを敵に回したくはないですが、実はアメリカも困るのてす。なぜなら、巨大な日本市場をアメリカは手放したくないし、中国と組まれて世界貿易の覇者となられても困るから。
そこで、アメリカとの同盟関係維持を約束するのと引き換えに、日本に有利な、日米間の貿易ルール締結をアメリカに呑ませるのです。アメリカはいまだに、日本にたいして自動車の輸出を制限する圧力をかけています。まだ終わらぬ「日米貿易摩擦」を終わらせ、かつての貿易摩擦の仕返しとばかりにアメリカに要求を突きつけることも可能となるでしょう。
日本が目指す国際戦略
以上のことから、日本が取るべき道、そしてこれからの国際戦略とは、次のように考えられます。
それは、アメリカと中国という大国のはざまで、時には敵に、時には味方になりながら狡猾に立ち回り、日本の利益をうまく引き出すこと。そして極東で戦争が起きないよう、勢力の均衡を図ることです。
特に、戦争を抑止することは我々の命に関わることですから、とても重要です。
中国による尖閣諸島への侵攻や、北朝鮮によるミサイルの発射・核の行使を防ぐために、新型迎撃ミサイルの配備、長距離輸送ができるオスプレイの配備、空母の導入など、日本は近年、国防を強化しています。
もちろん近隣の脅威に対抗するには、この国防強化は必要なことですが、これでは極東各国で軍拡競争が進むばかりで、将来の大戦争の引き金を用意しているだけです。
将来の戦争を避けるためには、そろそろ、日本の呼びかけによる、極東での軍縮を協議する必要があるのではないでしょうか。
ただ、米中が軍縮に合意するためには、米中の対立を終わらせなければなりません。中国には、既存の貿易体制に従わせることを、アメリカには、中国が従うよう過度な圧力を加えさせないこと、を日本が両国に働きかける必要があります。
もちろん、アメリカは何も得をしないので納得しないでしよう。アメリカは徹底的に中国を潰したいし、戦争になったとしても戦場は日本周辺なので、本国に被害は及びません。
でもそれでは日本は困るのです。大国のエゴで、日本の国土が荒らされ、国民の命と財産が失われてはならないのです。その避けがたい将来の結末に、日本はアメリカに対して「NO」と主張すべきときが来ているのです。
平和な極東を実現し、日本の仲介により既存の貿易体制を守りつつ、アメリカにも中国にも妥協させ、日本に有利な貿易条件を獲得する。これが、実現可能な、日本の目指すべき道なのです。
今回のドルーロにゃんの解説はここまで。
この国の衰退を食い止めたい、ニッポンを復活させたい、経済って何なのかゼロから知りたい、という思いから、ドルーロにゃんはこのブログで政治経済を学んでいきます。
日本の衰退を食い止める方法は「ひとりでできる経済政策」で解説しています。
どうして日本は衰退してしまったのかの4回シリーズや、キホンのギモン解説集も見てみてください。
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